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新潟地方裁判所 平成8年(わ)108号 判決

裁判所書記官

更科和美

本籍

新潟市河渡三丁目己二九五番地子乙

住居

同市河渡三丁目六番二七号

テレホンクラブ経営

近藤喜與一

昭和一三年五月二一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官瀧澤佳雄、同川内弘一出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金二三〇〇万円に処する。

被告人において右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、新潟市、新津市、三条市及び新発田市において「パンダハウス」、「サンヨー企画」の名称でいわゆるテレフォンクラブを経営するものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右テレホンクラブの売上を一部除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成四年分の実際総所得金額が六四六一万四九三一円で、これに対する所得税額が二七七五万二五〇〇円であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、新潟市営所通二番町六九二番地の五所在の所轄新潟税務署において、同税務署長に対し、同四年分の総所得金額が四五九万三六六一円で、これに対する所得税額が四一万五八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額との差額二七三三万六七〇〇円を免れ

第二  平成五年分の実際総所得金額が七三八五万三九五九円で、これに対する所得税額が三二三八万八五〇〇円であったにもかかわらず、平成六年四月六日、前記新潟税務署において、同税務署長に対し、同五年分の総所得金額が三五〇万一八三九円で、これに対する所得税額が二四万五四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額との差額三二一四万三一〇〇円を免れ

第三  近藤猛と共謀の上、平成六年分の実際総所得金額が六四一五万五九四三円で、これに対する所得税額が二五四九万七五〇〇円であったにもかかわらず、平成七年三月一五日、前記新潟税務署において、同税務署長に対し、平成六年分の純損失が五二九万六一二六円で、納付すべき所得税額がない旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同年分の正規の右所得税額を全額免れた

ものである。

(証拠の目標)

〔  〕内の符号は検察官請求証拠番号を示す。

判示全事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(八通)

一  近藤猛(五通)、坂上純夫、吉沢誠、白井由香、近藤サキ子、金子優子、今井美奈子及び堀川岩吉の検察官に対する各供述調書

一  井崎廣雄(二通)、近藤トモ子(二通)、星貴代美(三通)、坂上孝英、川崎真理子、石黒昇、山崎真澄、酒井由美、横山由美及び金子信子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の告発書、現金調査書、預貯金調査書、査察官報告書(六通)、建物付属設備調査書、機械装置調査書、車輛運搬具調査書、器具備品調査書、預け金調査書、施設設置負担金調査書、敷金調査書、過払源泉所得税調査書、事業主貸調査書、建物(自宅)調査書、訴訟金調査書、借入金調査書、未払金調査書、事業主借調査書、元入金調査書、事業専従者控除調査書、申告所得調査書、その他所得へ調査書、その他所得調査書、現金・預金・有価証券・印章等確認書、写真撮影てん末書(四通)、現金等確認書及び検査てん末書(八通)

谷口伸二の検察官に対する供述調書

一  真柄裕、丸山直子、森山学、川上陽子、高橋薫、広瀬一栄、堀井正明及び藤塚晴夫作成の各答申書

一  新潟税務署長作成の回答書

一  新潟貯金事務センター所長作成の通常郵便貯金の口座の写しの照会書について(回答)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の修正貸借対照表〔甲2〕

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の修正貸借対照表〔甲3〕

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の修正貸借対照表〔甲4〕

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項(判示第三の行為についてはさらに平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条)に該当するところ、いずれも情状により所得税法二三八条二項を適用の上、所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第一ないし第三の各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金二三〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、いわゆるテレフォンクラブを経営していた被告人が、事業の資金を得るためや資産を増やすため、平成四年分から平成六年分までの合計一億九四五二万円余の所得を秘匿し、所得税八四九七万七三〇〇円を免れたというものであり、その動機に斟酌すべきものはなく、その方法も売上伝票の一部を廃棄し、残りを税理士に渡したり、共犯者の息子に命じて月ごとの売上集計表の数値を過少に改竄させ税理士に届けさせたりしたというものであり、愚劣な手段を弄したもので、脱税額も多額で、ほ脱率も高率であり、その犯行自体悪質であると言わなければならないし、被告人の犯行が税負担の公平を害し、善良な国民の納税意欲を阻害するものであることなどに照らすと被告人の刑責を軽視することはできないが、被告人が当公判廷において反省していることが認められること、修正申告を行い、ほ脱した税金もすべて納付済であること、テレフォンクラブについては、廃業にむけ整理中であること、その他、被告人の年齢、家族の関係、日頃の生活態度、前科の関係等本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、被告人を主文掲記の刑に処し、今回に限り右刑の執行を猶予するのを相当と思料する。

(求刑 懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 姉川博之)

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